カジノの本質 ~カジノディーラーは敵ではない!~
先ずは、カジノの本質をお話する前に「カジノディーラーは敵ではない!」ということを強くご理解いただきたいと思います。
私が以前、海外のカジノで働いている時に友人から「毎日毎日ゲームをやっているプロのカジノディーラーに勝てる訳がない!」とよく言われました。確かに毎日ゲームをプレイしているカジノディーラーと真剣勝負をすれば勝てるはずがないと考えるのも無理はありません。
しかし、実際にカジノディーラーは、お客様に勝ちたいとかお金を巻き上げてやろうなどと思うことはありません。カジノディーラーは、お客様に勝ってもらってこそ儲かる仕事だからです。
例えば、お客様がカジノで負けたとしたら儲かるのはハウス、つまり会社の儲けであってカジノディーラーはその月のボーナスも昇給もありません。反対に、お客様が勝てばそれはハウスの損益であって、カジノディーラーは減給も叱られることもないどころか、勝ったお客様はティップ(Tip)を弾んでくれます。それはカジノディーラーの収入であり、ハウスに持っていかれることはありません。
- チップ(Chip)≠ティップ(Tip)
そう考えると、カジノディーラーはお客様に勝ちたい筈がなく、むしろ勝ってもらいたいと応援してくれるというものです。しかし、時にマナーの悪いお客様には勝ってほしくないと思うものです。カジノディーラーも人間ですから。
私もよく「カジノの必勝法は?」と聞かれることがありますが、カジノの原理から考えれば必勝法はありません。そう答えます。しかしながら、ちょっとした攻略法はあると思います。
それは、カジノディーラーを味方にすることです。
これは冗談ではなく真面目なお話です。少し難しいように思いますが、例えば初めのうちに少しのティップをあげるとかテーブルに入る際に笑顔で挨拶することも大きな効果があります。後はマナー良く遊ぶだけです。
それをご理解いただいた上で、世界のカジノで楽しく遊んでもらいたいと思います。では、そもそもカジノはどのように誕生し、どのように発展してきたのかについて、簡単に説明いたします。
カジノの歴史
カジノの歴史は古く、16世紀頃のヨーロッパにその起源を残しています。16世紀のヨーロッパといえば、イタリアを中心とするルネサンス全盛期と大航海時代の真っ只中にあり、豊かな貴族社会を迎えていました。この頃に王侯貴族など上流階級の娯楽として遊ばれていたのが、カジノの原型だと考えられています。
カジノ(Casino)の語源が、イタリア語の家や別荘を意味する「Casa」に由来していることもその裏付けだと考えられます。また、世界最古のカジノは、イタリア・ヴェネチアにある「カジノ・ディ・ヴェネチア」(1638年)と言われています。
その後、カジノは時代とともに形を変えながら世界各地へ広まっていきました。現在もヨーロッパでは伝統と格式を重んじるカジノも多く、ドレスコードや入場制限が設けられています。カジノで繁栄したモナコでは、1863年に周辺国の王侯貴族をターゲットにオープンした「グラン・カジノ」が大成功し、世界のセレブリティーが集う南欧屈指の高級リゾートへと発展しました。
一方で、世界一のカジノエンターテイメントシティとして知られるアメリカ・ラスベガスでは、元々は貧しい旅人たちの娯楽が発祥であったため、カジュアルで庶民向けのカジノへと発展していきました。19世紀のアメリカは、カリフォルニアを中心としたゴールドラッシュに沸いており、多くの人々が一獲千金を目指して西海岸へと大移動していました。その道中にあった砂漠のオアシスがラスベガスであり、旅人たちはお酒を飲みながらカードゲームを楽しんだと言われています。これがギャンブルの町「ラスベガス」誕生の瞬間です。因みに、ラスベガスとはスペイン語で「草原」という意味です。
こうして1931年のカジノ解禁以降、商業的に発展したラスベガスのカジノは過当競争を迎え、サービスの向上やホテル価格の低額化が進んでいきました。それ故にエンターテイメントが充実し、今でもその収益率はカジノを上回っています。
このように、ヨーロッパとアメリカでは、カジノの発祥と成り立ちが異なり、それぞれの文化として根づいていきました。
そして、世界一のカジノシティへと成長した中国・マカオでは、ポルトガルの植民統治であった1850年代からギャンブルを認めていましたが、正式にカジノが誕生したのは1930年のリスボアが第一号と言われています。マカオを初めとする韓国やシンガポールのアジア圏のカジノでは、バカラやシックボーなどのゲームが爆発的に人気があり、これもまた欧米とは違った民族性であり、カジノの文化となっています。
カジノの本質
カジノは、国によってその発祥や導入の目的が異なっていて、現在も観光・娯楽の文化として人々に楽しまれています。しかし、それにはしっかりとした法律によって規制・管理されているという土台があります。これまでも多くの国では、カジノ=ギャンブルを法律で禁止していました。しかし、需要があればそれを請け負う反社会的組織があり、彼らの恰好の資金源となっていました。そういった背景からやむなく法律を作り、ギャンブルを規制によって管理する時代へと変わっていきました。そうすることで税収を生み出し、新たな財源が確保できるようになったというメリットもあります。
カジノは、ギャンブル行為の提供を主なサービスとするため、その事業者には社会的な責任が求められます。例えば、企業としては売上を優先させたいが、社会的責任の観点からはギャンブル依存者を出してまで儲けてはいけないという義務を負います。これは事業者だけに限らず、カジノを導入する国や自治体、そこに従事する従業員にも求められる社会的責任の活動と教育なのです。そのため、事業者と国はカジノの入場制限を設けたり、従業員の教育やギャンブル依存対策に費用を費やすのです。
この社会的責任の取り組みを海外では「レスポンシブル・ゲーミング」と呼びます。これは、世界のギャンブル産業においては常識の考え方であり取り組みとなっています。日本でもカジノ導入を機に、レスポンシブル・ゲーミングの取り組みが社会一般化されることでギャンブル先進国の仲間入りを果たすと考えています。
レスポンシブル・ゲーミング(Responsible Gaming/責任あるゲーミング)
レスポンシブル・ゲーミングは、ギャンブルサービスを提供・運営・認可する事業者および国・自治体が真摯に取り組むべき社会的責任と取り組みです。日本ではまだあまり知られていない言葉ですが、海外のゲーミング業界では周知の社会通念となっています。日本でもIR導入の整備が着々と進められ、近い将来にもカジノが身近に誕生します。同時に、皆さんもレスポンシブル・ゲーミングの取り組みを理解しなければいけない時代がきます。
- ゲーミング=ギャンブル
これまでも日本は、公営賭博やパチンコなど多くのギャンブル機会が蔓延する環境にありました。ギャンブルに携わる事業者や行政への規制、ギャンブルとの付き合い方の教育機会がなかったことで日本はギャンブル依存症大国となりました。レスポンシブル・ゲーミングを理解することで安心で健全なギャンブル産業を育成し、多くの依存症者が救われるのです。日本は、ゲーミングにおいてはまだまだ後進国ですが、IR導入を機に日本のゲーミング近代化に期待されます。
- 企業の社会的評価に、CSR(Corporate Social Responsibility=企業の社会的責任)という考え方があります。「コンプライアンス」が法令遵守であるのに対して、「CSR」はより広義な意味で社会の要請・要求に応えるための責任として浸透しています。Responsible GamingはCSRの重要な要素の一つとなります。
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